15|180910|沖縄

 

 出る前に、彼とはどうしても会っておきたかった。

 

 指定されたホテルはリニューアルオープンしたばかりのようだ。ロビーは開放感があり、カフェの窓からは陽光が差し、風情ある町並みが見渡せる。

 

 どん底で先が見えなかった空白の時期のことを、彼は話し始めた。

 

 人生を賭けてきたものが潰え、途方に暮れたという。彼はそれまでの全てを喪った。少なくともそのときはそう感じていた。そして仮に全てを喪っていたとしても、彼がその先も生きていくということに変わりはなかった。ましてや彼の人生はまだ始まったばかりである。

 

 同級生が堂々とお天道さまのもとで希望の道を歩んでいるそのときに、彼は絶望の淵にあり、身もふたもない過酷な現実と向き合い、工場労働者の町を生きた。その町の電車に朝夕揺られ、自身の人生にもう二度とスポットライトはあたらないのではないかという不安や恐れと向き合いながら、ぐっと堪えて日々を過ごした。

 

 「なにかしらの背景や事情を抱えた人たちが集まっていたんですよね。そしてその場にぼくもいて。何て言うんだろう、連帯意識ではないんだけど、ぼくたちはともにいるんだなというような空気を感じていましたよね。

 

 今もやっぱり日々うまくいかないこととか、悩むことは当然のようにいつもあって。何をやってもうまくいかないなぁと嘆きたくもなるし、ぼく自身の限界をいつも突きつけられているように感じます。何を大切にしてやり続けていけばいいのか昔よりは見えてきた気もするけど、きっと何かを変えなければいけないから今の課題に直面しているんだろうなぁとも思うんですよね。

 

 そんなとき、今もあのときのことを思い出すんっすよね。あれから何十年も経っているんだけど、あのときのことがぼくの力になっていると思います。

 当時のぼくには意義や目的などなかった。それを喪ったばかりだったから、ただただ目の前にあることに懸命に取り組むしかなかったんですよね」

 

 イマヅさんは意義や目的をどうしても求めてしまうんでしょうね。それが「イマヅらしい」と言えるのかもしれないとも思うし、きっと見つけるんだろうとは思うんですけどね。付け足しのようにそう言って、彼は笑った。

 

 危機的局面はすでに乗り越えたと高を括っていたが、違うのかもしれない。これから真に試されるのかもしれない。いや、きっとそうなのだ。

 

 ぼくのなかを、今も彼の言葉が響いている。