105|181209|広島

   昨夜のNHKスペシャルは、「ロストフの14秒」というロシアW杯決勝リーグで日本がベルギーに逆転負けしたロスタイムの舞台裏に迫ったものだった。

 

 ロストフ・アリーナの左コーナーから本田圭佑が蹴り入れたボールはベルギーのGKクルトワに完璧に読まれていた。フィードされたボールを受けた快速MFのデ・ブライネは自陣ゴールエリアから時速30キロで駆け上がり、ハーフウェイラインを越え、対人プレイに自信のある日本のボランチの裏をとって右サイドにスルーパスを流した。ベルギーのエースFWルカクに並走していた長友佑都はそのマークを外し、ボールについていってシュートコースを完全に潰したから、右サイドのDFムニエは中央にいるFWルカクにダイレクトで折り返した。

 

 日本代表のキャプテンである長谷部誠は敵陣から猛ダッシュで駆け戻っており、ルカクのシュートコースを左足を伸ばして防いでいた。しかし、ルカクは後方に駆け込むチームメイトに気づいており、そのボールをスルー。それに対応しようと長谷部は残り足を伸ばしたが、ボールの軌道を変えるには至らない。そしてフリーのMFシャドリは日本ゴールに決勝点を蹴り込む。直後、ゲーム終了の笛は吹かれた。

 

 本田がコーナーを蹴ってから日本がゴールされるまで、わずか14秒。番組は、長谷部や長友、吉田麻也などの日本選手や、ベルギー選手、元日本代表監督など多くの関係者へのインタビューや30台近いカメラ映像の分析などから、その14秒を多角的に捉えようと試みていた。

 

 日本代表は後半開始早々に原口、乾の2発を叩きこみ、2点リードしており、その後も明らかに日本が試合のペースをつかんでいた。しかしその流れは安易なミスを機に大きく転換していく。自陣でのパス回しで、長谷部が近くにいた香川真司にぶつけてしまったのだ。

 

 ボールはタッチラインを割りベルギーボールとなる。スローインで再開したゲームは、日本にとってアンラッキーなヘディングシュートにつながり、1点差に追いつかれる展開となる。

 

 ロスタイムに喰らった高速カウンターのはるか前に、そのプレイはあった。もちろんそのミスで勝負が決まったわけでもなく、そこだけ切り取ればとりたてた出来事は起こっていないように見えなくもない。そしてそれ以後もプレイは30分近く続き、さまざまな選手や監督の判断と行動が重ねられていったのだ。

 

 しかし、あのときに局面は転換してしまい、大勢は決してしまったのかもしれない。あれは日本がまだ2点リードしていた局面だったし、自陣ゴールからも敵陣ゴールからも離れたハーフウェイライン付近でのパス回しだった。しかし彼はあのとき油断するべきではなかったのだ、いま振り返ってみれば。

 

 この試合はロシアW杯の名勝負の一つと評され、優勝候補の一角であったベルギー代表をぎりぎりまで追い詰めた日本代表の健闘は、世界のサッカーファンからも大いに讃えられたように記憶している。そしてもちろん、ぼくはここで長谷部選手のことが言いたいわけではない。

 

 番組を観たあと、「何か」が無性に気になって仕方なかった。ぼくは昔と比べてそれほどサッカー好きなわけでもない。しかし「何か」がぼくのなかで引っかかっていた。

 

 思い当たることがあった。大きな出来事が起こる何年も前に、ぼくは一つミスをしていたのだ。実際のところ、ぼくはこの瞬間までそれをミスとも何とも思っていなかった。それは日常的な記憶の一部として埋もれてしまっていた。

 

 しかし考えようによっては、それは取り返しのつかない判断ミスだったのかもしれない。逃してはいけないチャンスだったのかもしれない。いずれにせよ、あそこでぼくは油断するべきではなかったのだ。

 

 そしてひとたび局面が転換してしまうと、二度と同じような機会や流れが訪れることはなかった。その数年後、わかりやすい出来事が起こり、ぼくは大きく挫折した。挫折する前後のぼくはベストを尽くしていたのだが、それよりもはるか前、会社が上り調子になり始めた頃、ぼくは気をゆるめていた。少しホッとしていたことは確かだし、結果的にやるべきことをやらず、やりたいようにやっていた。油断していた。

 

 いずれにせよぼくの現実は、自分自身のそれまでの判断と行動のうえに成り立っていた。それが意識的であったかそうでなかったかはともかく。