31 |180926|広島
5泊6日の家族旅行が終わった。妻と娘を羽田空港で見送り、ぼくはひとり新幹線で広島へと向かう。
廃校を再活用した自然体験施設での2泊3日でのキャンプでは、ヤギに触れ、豚や鶏に餌をあげ、山に登り、漁船に乗り、娘は同じくらいのお友だちと走りまわり、地域の運動会に参加し、ピアノの即興コンサートを楽しみ、露天風呂に入り、二段ベットで眠った。娘の6歳の誕生日はディズニーランドで迎え、3人それぞれでクレープを食べて、いちごショートケーキでお祝いをした。水族館ではイルカに触れ、ペンギンショーを楽しんだ。妻も新鮮な魚介類やセンスの良いお店を満喫したようだし、何よりも娘の楽しそうな姿を見て嬉しそうにしていた。
2人と過ごした密度の濃い時間を名残惜しく感じながら、頭を切り替えようと深く息を吸いこむ。旅行中ひらくことができなかった雑誌や文庫本を手にとるが、少し疲れているようだ、ウトウトと小一時間ほど眠る。そうこうしているうちに、あっという間に広島駅へと到着する。改札を出るとどうもざわついている。ついさっき広島カープのセントラルリーグ3連覇が決まった様子。縁起が良い。
タクシーで滞在予定のホテルへ。運転手によれば、今日は明け方までファンの宴で広島は大賑わいとのこと。なんとも喜ばしい。祖母が赤ヘルファンだったこともあり、野球少年だった小学生時代には帰省のたびに広島市民球場に連れて行ってもらった記憶がある。当時のカープは山本浩二、衣笠祥雄、高橋慶彦、北別府学などの名選手を古葉監督が率いる黄金時代だった。
お風呂からあがってテレビをつける。地元の放送局がどんちゃん騒ぎの優勝祝賀会の模様を映し出している。6,000本のビール? 一体いくらするんだろう? 本当にどうでもいいことが気になって仕方ない。頭のなかで計算機をはじく。
今この瞬間の広島の空気を感じたくて、短パンサンダルでホテルの外に出る。空気は冷たく澄んでいる。赤いユニフォームを身につけた人たちが数人ほど歩いてはいるものの、ファンの歓声や騒ぎ声などは響いておらず案外に静かである。
ふと上空を見上げると、丸く月が浮かんでいる。山本浩二選手が大好きだった祖母のことを思う。ぼくは祖母のことが好きだった。もしかしたら祖母もカープの3連覇を喜んでいるのかもしれない。そして、妻と娘との5泊6日の幸せな旅行を終えて、今日ぼくが広島にやって来たことを祝福してくれているのかもしれない。
明日からまた、ぼくの新しい日常が始まる。