61|181026|大沼公園

 目覚めると、広く明るい窓には紅や黄へと枯れつつある美しい木々が一面に広がっていた。

 

 ホテル周辺には直営のパン屋ぐらいしかなく、ホテル内の施設にぼくが落ち着けそうなお店もスペースもなさそうである。露天風呂と自分の部屋ぐらいか。とにかく仕事に集中するには、いい環境と言えるかもしれない。他には何もやるべきこともないし、肚をくくって向き合っていこうとは思っている。

 

 コーチにも言われたように、自分の価値基準に収まる範囲内で「いいもの」をつくろうとしている感が否めない。手を動かしているうちに「いいもの」から逸脱しようとする働きは自然とやってくるのだが、その働きに意識を向けようとしなければ、それは無意識の作用に打ち消されてしまいがちである。そしてそうした何かを否定する行為を惰性的にやっているうちに、自然な勢いは失われていくことになる。

 

 「良い悪い」の判断を一時保留し、筆が進むに任せていきたいとは思いつつ、外部の目や評価を気にするエゴが即座に現れてしまいがちである。素を晒していきたいと思っているのだが、ぼくにとってそのことはなかなかに難しい。今さら何を晒したとしても喪うものなどなさそうなものだし、いずれにしても自らの持てるもので挑んでいくことしかできないのは頭ではわかっているつもりである。しかし、まだ未練がましく何かしらの執着が残っているようなのである。

 

 さらに悩ましいことに、未だに自分が何事に対しても全身全霊をかけて挑んだことがないような気がしてきたのである。それが望ましいことだとは、もちろんどうしても思えないのである。